DHAのお話

ω3脂肪酸ってなに?EPA、DHAのお話

dha高脂血症、糖尿病、高血圧、肥満は、心筋梗塞、脳梗塞などの重篤な合併症を起こす大きなリスクです。同時多発的に起きてくるこれらの病気は、メタボリックシンドロームと呼ばれるようになり、そのコントロールについては疾病予防の見地から大変に注目が高まっています。 高脂血症のコントロール、特に高トリグリセライド血症は動脈硬化性病変の予防の点からも重要ですが、魚油に多く含まれる EPA(Eicosapetaenoic acid:エイコサペンタエン酸)やDHA(Docosahexaenoic acid:ドコサヘキサエン酸)などのω3脂肪酸と呼ばれる魚油は高トリグリセライド血症への有効性が報告されてきました。EPAはイコサペント酸エチルとして製剤化されていますが、DHAは未だ製剤化されていません。DHAは人の体内においてEPAと同様の抗高脂血症作用を有する事が知られていますが、 DHAの臨床現場での効果についての結果が待たれていました。私は2006年度埼玉県大宮市で開催された日本健康予防学会にて大変反響の大きな研究発表を行いました。それは、DHAが定量し含まれている食品を高脂血症の患者20名に用い、解析可能なデータが回収できた16名について各種血清脂質に対する結果でした。この結果は、学会から論文作成を要請される質の高いもので、現在作成中です。

研究結果をもうちょっと詳しく

私は、青山病院に勤務していた4年前から2年をかけて、プラバスタチンやフルバスタチンのような、スタチン系薬剤などの高脂血症治療薬を内服していても、効果が十分でない方にEPAを上乗せで用いて改善するデータを得ていました。そのなかで、ω3の兄弟ともいえるドコサヘキサエン酸(DHA)の意義を探ろうと考えましたが製剤化されておらず、臨床上のデータは解析不可能でした。

ところが、2005年夏ドコサヘキサエン酸(DHA)が優位に規定量(850mg)定量され含有している、生労働省認可特定保健用食品であるソーセージ、リサーラが発売されるという事を医師向けメーリングリストで知りました。リサーラは無事発売され、これを用いることによって高脂血症患者における治療効果を検索する事が可能となりました。良い了解を得られた患者さんにお願いし、リサーラを食していただき、通常の採血を用いデータを解析しました。検査は、いつもどおりの大手血液検査会社さんにお願いし改変不可能な客観的データを得ることができました。その結果、非常に注目される結果が得られたのです。中性脂肪だけでなく最近になり直接計測できる様になった、悪玉コレステロール、レムナント様リポ蛋白-コレステロール(RLP-コレステロール)も優位に低下していたのです。

この内容は、日本予防医学会誌に英文サマリーとともに論文発表しています。

女性セブン誌で『悪玉コレステロールを低下させる』と記事にしていただいたのは、このRLPコレステロールが低下した事を指したものでした。もちろん、通常計測される総コレステロール、LDL-コレステロール、HDL-コレステロールも改善の傾向を示していました。それでもやはり注目に値するのは、動脈硬化に強く働くと言われるRLP-コレステロールを32.9%と低下させたことだと思います。スタチン系薬剤を内服している患者さんにおいても上乗せの効果が得られています。この研究報告はDHAによる高脂血症患者を対象とした初めての治療成績と考えられ、EPA同様の効果を有する事が示され、さらに新しいデータを追加できたのでは無いかと考えています。

さらに、リサーラは薬剤のように精製純化した薬剤ではないため、魚肉タンパク質との同時摂取によるω3吸収促進も期待できます。患者さんとのお話から、ソーセージを食べる事により、腹持ちが良いため間食が減少し、魚食への食習慣の切り替え、血糖値の改善などのうれしい副次的効果も認められました。これらの事は、今後、メタボリックシンドローム患者の治療において大変重要な結果だろうと思っています。この内容は産経ビジネスアイさんやYahoo Japanニュースをはじめ、様々なメディアに取り上げられたのでご覧になられた方も多いのでは無いでしょうか。

DHAは脳に効く?EPAとDHAの性質の違う"兄弟"

また、DHAは、その脳内代謝産物 NPD1がアルツハイマー症の患者の脳において低下していることより、中枢関連疾患の予防にも有効である可能性が指摘されています。同じ学会で発表された島根大学のグループは、物覚えに大切な海馬の神経細胞がDHAにより盛んに分裂し、細胞死を起こしにくくなり、神経細胞への分化も促すというデータを示されていました。私は神経細胞の培養研究を行っていましたので、そのデータの持つインパクトに驚きを覚えました。DHAがEPAには乏しい物忘れ予防への効果を持つ点は高齢化社会に於いて大きな意義を持つものと考えられています。(私は、社会保障少子問題研究所の方と共同研究してきましたので、日本の少子高齢化には大変危機感を感じています。)

学会でご講演を頂戴し、お会いした中川八郎先生もお子さんの脳の発達におけるDHAの重要性について述べられていました(ブログをご参照ください)。一方、EPAにはDHAには無い血栓予防効果、つまり、脳梗塞や心筋梗塞予防効果が認められています。ω3の"兄弟"ともいえるこの二つの魚油の仲間を上手に摂取していく事が、海洋国日本に馴染み深い、素晴らしい食習慣と言えるのでは無かと思っています。

海を眺めながら、食卓の飾り気の無い白いざらっとした冷やされた四角い陶器の上に刺身が並び、海藻と魚の頭部が多く入った温かいあら汁を頂き、米飯に発酵食品である納豆をかけていただく。ごく自然な見た目も美しい和食に長生きの秘訣がかくされているのだと思っています。

2016/10/20